2015年 第二期 会場風景
作家からのコメント
「いきものたち」 宮田亮平
芸術表現の中で、もっとも魅力あるモチーフは自然界の「いきもの」ではなかろうか。先史時代のスペインのアルタミラ洞窟、フランスのラスコー洞窟には、いきものの姿が見事に描かれて現代の人間に驚嘆とうるおいを与える。先史時代から現在に至るまで、いきものは美のモチーフであり、数多くの芸術作品が制作されてきた。
なぜ、人はいきものに魅了されるのだろうか?そして、果てしなく長い年月の間、いきものが作り手の造形意欲を奮い起こし続けたのは、いきものの姿、いとなみが際立った魅力を放っているからであろう。
今回の展覧会に出品する作家も、いきものに魅了され制作に取り組んでいる。各自いきものとの接点は、内的世界に色あせない記憶としてあり続けている。
いきものとの心地よい距離、自分の眼、手の記憶を探り、今を生きる自身の世界と融合させる。私のテーマとしている「イルカ」は18歳の時、東京藝大を受験する際、故郷である佐渡より乗った船から見たイルカの大群です。故郷を出る私にエールを送ってくれたのではと思い出し、今に続くテーマとしています。海を泳ぐイルカですが、天空をも泳ぎきる躍動感、豊かな故郷の思いを託して、思いのままに気持ち良く制作を続けています。
クリエイションの未来展第6回は、いきものと真摯に向き合って立体造形を行う、新鋭作家を紹介します。
本展は2部構成でなり、私の専門である金属造形から、私と丸山智巳、相原健作による第一期展。第二期展は木彫の深井隆と土屋仁応、中里勇太が発表を行います。いきものという、親しみやすいテーマのもと、金属・木の特性を生かした多彩な表現を発信します。
今日、高度な現代社会を営む中で、改めて自然環境の重要性が問われています。人間と自然といった極めて普遍な問題を改めて考えるきっかけにしたいと考えます。現在も数多くの作家が、いきものに表現を求めることは、自然が遠のき、管理社会が進む現代社界への鋭い言葉とも言えるでしょう。
「いきものたちのカタチのものがたり」 深井
私たちは、この地球でたくさんの生きものたちと共存している。もちろん私たちもその「いきもの」の仲間だ。生き物を見ていると、自身の内に今まで気づかなかった慈しみや、同じ仲間なのだという共鳴音に、多くの感動をともなって気づくことがある。その感動ゆえ私たちは、彫刻や絵画にその物語を表現したいと思うのだ。
今回一緒に展覧会に参加する三人は、木を素材に動物を制作している彫刻家だ。
土屋仁応さんのつくる動物は、鹿や猫などいろいろだが、どの「いきもの」も、幼い時期のカタチの印象を持つ。それはやさしく、たおやかであり、成長する力を内包し、見る者に静かなエネルギーを与えてくれる。大学院で保存修復を学んだ彼の動物たちの瞳には、仏像に使われる玉眼の技法が応用されている。そのことも、生き生きとした命を与えているのだと思う。
一方、中里勇太さんのつくる、犬や狼は躍動感あふれ、毛並み一本一本が力強く表現される。その卓越した写実性は、動物が本来持つ野性の生命力を直線的に表現している。中里さんの世界は「いきもの」との共存、共鳴に満ちている。それが見る者に野性の力強い感動を与える。
私の場合は馬である。ただ、上記の二人と違って馬でいて馬ではないという彫刻だ。私の心の奥底に沈んでいる物語に光をあてたとき、時間の堆積の中に在るもの(言葉や、感覚に変化してしまっている昔の記憶など)をあらわすために馬や、(もう一つのモチーフである)不在の椅子などで物語を綴る。その馬は写実からほど遠く、時空間の距離を感じさせられればよし、と考えているものだ。
三人の彫刻が、同じ空間に置かれるのは初めての事で、それぞれの「いきもの」が持つ世界観が、どのように共鳴し合うのか、どのような新しい物語を編むのか楽しみにしたい。

 
宮田亮平 「シュプリンゲン 群遊」 2015年 深井 「月の庭 -黒い月-」 2015年 H30×W90 ×D90cm
H180×W360×D40p アルミニュウム、金銀箔      樟、黒箔(銀)

 
丸山智巳 「RIDER」 2015年 H108×W70×D175cm 相原健作 「今日風にのる、明日波にのる」 2014年
銅、銀箔、漆 H110×W80×D55p 鐵、ステンレス

 
土屋仁応 「狐」 2015年 H37×W45×D23cm 中里勇太 「おはなしのひみつ」 2015年
樟、ボロシリケイトガラス、彩色 H23×W22 ×D25cm 榧、彩色