2012年6月5日 インタビュー:大橋恵美(LIXILギャラリー)
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大橋 |
衣川さんの作品には、子供の頃の夏休みの絵日記を思い出します。どんなイメージですか。
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衣川 |
人の記憶をくすぐるような作品をつくりたいと思っています。ぼくなりに今を描きたいと考えていますが、時間はどんどん流れていくものだし、なかなか表現するのは難しいですよね。そこで、切り取ったものの集合体を見せることで時間軸を表現することができるのではないか、誰もが見たことがある風景をつくることができるのではないかと考えています。
こうした作品とは別にスクラップブックをつくっているのですが、それを絵画作品に変換するような手法を6年くらい続けています。1冊の本が1枚の絵になっていくイメージです。
小説を読むことでもいいのですが、ページをめくることで時間旅行的な感覚が、たぶんみなさんも体験的にあるんじゃないかと思うんです、そういう感覚に近いものを表せたらと思っています。
鑑賞者によって、画面の前を行ったり来たり、引いたり近づいたりして、自分でそれぞれストーリーを組み立てることができたらいいですよね。
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大橋 |
描かれている内容は衣川さんのリアルですか。
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衣川 |
自分の日常はくだらないことの積み重ねでしかないので、もう少し引いたところでつくりたいと考えています。
「みえないものにふれてみる」シリーズの頃(2007)は、既存の印刷物のイメージとプライベートのイメージを混載させていました。最近はプライベートがメインになって自分が目にした感覚を頼りに、個人的な体験を記録しながらも、いろんな人が共感しやすい、匿名性の高い風景を制作するようにしています。
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大橋 |
なぜ、プライベートがメインになってきたのでしょうか。
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衣川 |
ぼくの絵には一人だけ大きく描かれた人物がいますが、鑑賞者の窓口になるのではないかと思い、こうした設定をしてきました。
最近の作品では、この登場人物を甥っ子であったり、友人の子どもをモデルにして描いています。知っている子を描いたほうが、リアリティが出るからです。
ぼく自身の少年時代みたいなものも、どうしても反映されてくるとは思いますが、今を描きたいという思いが強いので、未来やこの先をイメージさせるような、子どもが見る風景を想像して、そこに託しているところもあります。
印刷物を切り抜く時には、やはり自分の興味のあるものになります。ただそこでも普遍的な美のあるものを見たいと思って、例えば、古美術的なものや化石のような物質を選ぶこともありました。日常的に撮影している写真には作品には欲しくないものも写りますので、トリミングをしています。そういえば空を必ず描いていますね、実際青は好きな色なんですが、記憶に残りやすいのでしょうか。
また、今展出品する新作では、登場人物をなくして、世界の広がりみたいなものだけで描くことを試みる作品も出品予定です。
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大橋 |
もともとは版画科ご出身ですが、どのような作品でしたか。
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衣川 |
リトグラフの写真製版をメインにやっていました。写真イメージを解体して、ひとつの画面に並列させるように構成し、抽象的で、内在する宇宙的にも見える空間を描いた作品をつくっていました。
学生時代にやりたいことを追求しているうちに、作品が巨大化していったんです。それで、版画の技術でつくることが難しくなり、アクリルで描くようになりました。また、版画のシステマチックなところから、抜け落ちてしまう作家の想いもすくいとれるような気がしています。
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大橋 |
「奈良・町屋の芸術祭HANARA RT」(2011)では立体作品も同時に展示されました。
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衣川 |
これは花のかたちの支持体に風景写真を貼りこんだ上に、ペインティングをしています。実際の町の風景を撮影した写真を使ってつくっているので、土地の記憶を込めた花のオブジェクトになります。1本1本違うようにつくっているところも自然を模していて、「町の記憶の花」というイメージです。
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大橋 |
今後つくりたい作品はありますか。
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衣川 |
自分の作品を印刷物にしたいと考えています。アーティストブックみたいなものをつくりたいですね。パンフレットや雑誌の印刷物から、スクラップブックへ、そして絵へと起してきましたので、それをまた印刷物に還元するようなことをして、往復してみたいのです。メディアを横断することにより、現在をみつめる強いまなざしのようなものが浮かび上がるのではないでしょうか。漠然と進行する時間的なものを想像出来る強いイメージが生まれるのではないでしょうか。
ぼくなりに震災から感じたことに、さまざまな記憶を大切にする姿がありました。ぼくたちが目にしてきた出来事や物語が記録されて、ぼくたちの歴史になる。だから今という儚い時間、過ぎ去ってしまう時間のかけらを掻き集めるような手法で描きたいと思います。
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/インタビュー終了//>