2011年6月1日 インタビュー:大橋恵美(INAXギャラリー)
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大橋 |
一ツ山さんの作品は、等身大に近い動物がすべて新聞紙と紙紐でつくられています。躯体も新聞紙を芯にされているそうですが、なぜこの素材を選んだのですか。
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一ツ山 |
実家が紙紐工場で、小さい時から遊びに行っては廃材を入れる大きなゴミ捨て場にお風呂みたいに埋まって遊んでいたので、身近な素材だったんです。
工場の紙の何トンもの積載量や機械の大きさもそうですが、静岡県で一ツ山という苗字の由来になった富士山がいつも側に見えていたことも大きいと思います。見るものすべてが大きかったので、今でも未だ自分の作品は小さいと思っているんです。
紙の町で育ったからそれは自分の個性のひとつなのだと考えています。根がないと自信を持って作品に表すことはできないです。
素材に関しては模索が続いています。本当に正しい素材なのか、量なのか、良いのか悪いのか。新聞紙を貼るだけでは、印刷されているニュースが目に入る。そうした作品はそれ以前にもたくさんつくられている。それで新聞紙で紙紐をつくったらどうかと思いました。
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大橋 |
動物を選んだ理由はありますか。
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一ツ山 |
「君が心の呼び歌 今も聞こえる」(2011.1)犀の作品ですが、知り合いのNGOグループの研修旅行でザンビアへ行った時のことです。エイズや妊婦の衛生の講習会をしたり、専門の施設のことを教えたりした帰りに、ナショナルパークへ自然を見に行きましょうかということになりました。そこでレンジャーの方が犀を見せてくれたのですが、それが密猟によって痛められてしまった元気のない、保護されている犀だったのです。
犀は角を人間に捕られてしまうのですが、その犀は間一髪で助かった後でした。密猟者はとても乱暴で、暗闇の中で角に刃を当てるので、角はひげのような繊維質でできているために、その部分が壊死して命を落とすような悲惨なことになるそうです。その姿を見て制作したので、元気のない犀の作品なんですが、周りに花をつくったのは、そういう目にあっても人間を攻撃するわけでなく、優しい雰囲気が感じられたのでそういうことを表したかったんです。
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大橋 |
こうした作品制作を始めて間がないそうですが、イラストレーターの仕事もされています。
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一ツ山 |
イラストは平面なので表現することに対して物足りなさを感じていました。仕事にするくらいですから大好きなのですが、空間や立体の方が感動するんです。大学時代からずっと東京に住んでいましたが、カナダへ行って自分には自然が向いていると気づきました。それからこうした作品をつくるようになりました。
「Gorilla’s man」(2011.5)親子ゴリラの作品は、映画「愛は霧のかなたに」を観て感動してつくりました。黒く色を塗った新聞紙と黒の艶のある紙紐を使いましたが、この腕の毛の部分は最後まで悩みましたね。ちょっとゴリラの胸元に寝てみたいなという想いでつくりました。マウンテンゴリラも保護されていますが、何かそういうものにぐっとくるんです。つくりたいものに出会うまではつくれない。愛しく思えないとつくれないです。
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大橋 |
観客の反応はどうですか。
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一ツ山 |
おしっこをちびっちゃった子供もいました。子供に感動してもらいたいです。何でできているの、すごい、乗りたいと言われるので嬉しいですね。でもつまらないと言われることもありますし、いろんな意見があるのがよいかと思います。
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大橋 |
2011年にたくさん作品をつくられています。
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一ツ山 |
安易な考えなんですが、3.11の後皆元気がないと思って、釣り人が魚を釣り上げた時の誇らしげな表情を思い出して、元気を出して欲しいと思って鮭とカジキマグロをモチーフのした「GIFT of life」をつくりました。
でもこれをつくることで、世界の食料事情に思い至って、命について考えてしまいました。新聞を使っているとアフリカ飢餓のニュースがよく見られるんです。旱魃や内戦で難民キャンプに来るのに、親が子どもを置いてこなくてはならない状況で、その子どもが食べられているのかどうかもわからないという記事があるんですね。
私はスーパーマーケットで大量に仕入れ何かとても安いお金で食べ物を手に入れることができる。ものの価値が見出されない、命の価値ってなんだろうか。それでこういうタイトルにしました。
植物や動物の命を分け与えられているから私は生きていくことができます。
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大橋 |
動物だけでなく人間も登場してきました。
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一ツ山 |
新宿ルミネの仕事だったので、「満員御礼」(2011.9 )というイメージで相撲をつくりました。いっぱい人が来たらいいな、相撲の「四股を踏む」には邪気払い、世の中を治めるという意味もあるそうです。
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大橋 |
今展はどのような作品になりますか。
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一ツ山 |
バイソンの群れをつくります。モウモウと毛が生えていて、土ぼこりがたっていて、4、5頭の群れがいたり、戦っていたり、入ってくる人に向かって来るような力強い作品です。
バイソンを選んだのは、野性のもの、土臭い泥臭いものがつくりたかったからです。アメリカでは食用に狩猟され過ぎて今やワシントン条約で守られている種です。
どんなに文明が栄え便利になっても、新しいエネルギーが開発されても、私は土の匂いや緑の匂い、大地の上にいる動物であることを忘れず、大地に生きる者として、力強く生きていきたいという思いです。
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