2012年8月7日 インタビュー:大橋恵美(LIXILギャラリー)
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大橋 |
齋藤さんの作品は九谷焼の技法による細かい絵付けとやわらかな色彩感覚が印象的です。
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齋藤 |
初期の「色織」(2010)では、好きな織物が縦糸と横糸の混色で出来上がる様に、絵付けを何度も重ね繰り返す中で、自分のイメージした色が生まれてくるところが織物と似た感覚の様に思いながら制作していました。
伝統的な模様パターンを意識していましたが、最近では色の組み合わせなども楽しみ、自由に絵付けをしています。
かたちに色がぼんやりついた程度のイメージで描き始めるのですが、窯焚きと絵付けを繰り返す中で、少しずつ全体のイメージがはっきりしてくるというつくり方です。
最近になって自分は模様を描きたいのではなくて、色の組み合わせを描きたいのだということがはっきりわかってきました。
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大橋 |
九谷焼を選ばれた理由は。
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齋藤 |
最初は絵付けでは無く、白磁に興味がありました。高校生の時に、陶芸家の前田昭博先生のアトリエに遊びに行き、白磁の作品にすごく感激したんです。もともと河井寛次郎が好きで、備前とか信楽とかそういう土ものに惹かれていたので、白磁を見たときは衝撃を受けました。長い間、自分の中でその思いがずっと残っていました。
有田や京都なども調べたのですが、その中で九谷焼の石川で制作することが一番自分に合っていると選びました。
大学卒業後、インテリアデザインの仕事を経てからやきものの学校へ入りました。
きっかけは、仕事を辞めてドロップアウトしていた1年間の間に、沖縄へキャンプしながら自由な旅をしたことです。
沖縄は工芸の町で、空の青さ、緑の豊かさ、織物の光を透かして写し出すような鮮やかさに感動しました。そこに高校生の時見た、光を透かす様な白磁のイメージがかさなったように思います。
それまでの大勢でつくる建築のような仕事ではなく、自分一人の手で出来る小さなものをつくりたいとやきものを選びました。
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大橋 |
色絵付の作品と白磁の純白の作品があります、どのように異なるのでしょうか。
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齋藤 |
初めは白磁に憧れてやきものの学校入りましたが、九谷焼はどちらかというと白い部分を埋めていく作業で、絵を描く勉強のボリュームが大きくなりました。でも描けるようになるとすごく楽しくなっていき、だんだん器のすべてにとことん描き込みたくなったんです。
「色織」(2006)を箱型にしたのも全面に描きたかったからです。そこで一度器ということを意識して、「色織」の次の作品「COVER」では、表面にのみ描くということをしました。
でも、本体の制作方法が石膏型で貼り合わせていく作業なので、絵を描くにも土を触るにも、すべてにおいて平面的な感覚があり、そんな作業にフラストレーションが溜まり始めて、ろくろを使って器をつくり始めました。
これと思った真っ白なかたちをつくり上げると、今度は真っ白な磁器に絵を描き込むことに恐怖を感じます。しかし一方では、真っ白な雪の中に足跡をつけたくなるような思いもある。
それで、色絵付けをした後、また次は真っ白なものをつくりたくなるという、無いものねだりの繰り返しになっていきました。
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大橋 |
「結晶」(2010)は、光が透過する白磁土だけの作品です。
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齋藤 |
絵付けをしない白磁は、色でかたちをごまかすことが出来ません。絵付けをすることでかたちに対して甘さが出てきているのではないかとも考え始めました。
色絵付けの作品を一度止めて、意識的に色を使わない作品で、白地に描くようにレリーフを彫る「結晶」(2010)をつくりました。ただ真っ白なものに向かい合いたかったということもありました。
白磁土を彫ることは、すごく難しくて何度も失敗しました。土がやわらかいうちに彫り始めますが、だんだん硬くなり、細かいヒビが入っていくようで、窯に置く振動だけでも割れたりしました。かなり失敗した分、感覚を掴めたと思います。このシリーズは一年ぐらいつくり続けました。
2010年頃までは、彫るか、描くかベクトルが2つに分かれていました。一緒にしたかったんですが、全然一緒にならなかったんです。「白夜」(2011)から色絵の作品に、白磁器を加えたらどうなるんだろうと少しずつ新たな挑戦を始めました。
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大橋 |
タイトルや作品全体のイメージはどこから生まれてきますか。
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齋藤 |
「うつしみ」(2009)の時は、金沢市のイベントで、鏡、宝箱、ジュエリーのどれかをつくってくださいというテーマがありました。そこで私は鏡を選びました。イメージしたのが神社の境内でした。それともう一つ、白雪姫の「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰」のフレーズが浮かびました。普段はこんなにロマンチストじゃないんですよ。そのように題材を投げかけられたり、つくりながら考えたりして、出来上がっていく過程でタイトルが決まっていきます。
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大橋 |
新作(2012)は淡い色彩で祭器のようなかたちになりました。
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齋藤 |
以前から淡い色は好きで使っていました。耐久性を意識して土を選ぶと、どうしてもグレーっぽい濃い色になり、その上の絵付けも濃くなります。純白の土が扱えるようになるほど、色もきれいに出るし、絵も気持ちよく描き込めます。そこから淡い色が表せるようになりました。
新作は4点ですが、「種」(2012)のイメージは、種には栄養分がたくさん詰まっていて、これから芽が出てくるというものです。自分もそうでありたいという意味も込めて、神様にお祈りするようにつくりました。
もう1点は、今まであった二つのベクトルが少しずつ歩み寄ってきた感があり、ようやく一つになるのかなという予感の中で仕上がった作品で、「始まりの器」というタイトルをつけました。
残りの2点「玉虫」「発光」はともに、お茶席で使用されることを想定して制作しました。どちらも薄く削り込むことで、椀を持ち上げた時に光が透けるようになっています。私の中では、お茶席でお茶を頂く行為は、器とその使い手がじっくり交じり合う場だと思っています。茶碗と向かい合うことで何か伝わることがあれば・・そんな気持ちで制作しました。
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/インタビュー終了//>