2011年12月2日 インタビュー:大橋恵美(INAXギャラリー)
|
|
|
大橋 |
篠崎さんの作品は、さまざまな技法を駆使して華やかで明るい色彩と装飾が特徴的です。2011年の大学院修了展では2mの大きな作品を鉄の櫓で宙に浮かせ、今までと違う表情を見せました。今回はその作品で展覧会をお願いしました。
|
|
篠崎 |
あの作品は自分が気持ちいいと思う動作を重要視してつくり、「I am hungry(私の欲求)」というタイトルです。生の土に電気窯のカンタル線を尖らせて何百本も刺したところに釉薬をかけパリパリさせて表情をつくったり、見た人がざわっとして、どこか別のイメージへトリップするような感覚の作品になれたらなと思ってつくりました。
私は高校生の時にはパティシエになるか陶芸をやるか迷ったくらいお菓子づくりが好きなので、同時にそういう感触も感じていただけたらと思います。
|
|
|
大橋 |
陶芸を選ばれた理由は。
|
|
篠崎 |
大学に入るまで美術は全くやっていませんでした。絵を描くこともなく、でも土の感触がすごく好きで、泥団子をつくったり、泥を投げて遊んだりしていました。子供の頃から、金木犀の香りが欲しくて花を集めてグツグツ煮たり、ティッシュを小さくちぎって山にしたり、気づくと手が動いていました。それで安心しているようなところもあって、今も手を動かして土に触って考えていくので、繋がっているかもしれません。
入学したときは、陶芸=ろくろというイメージしかなかったので、立体をつくれたのがすごく楽しくてはまりました。自分で面白い素材だと思ったら、こだわりなく触っていきたいとは思っていますが、今はやはり土が一番面白いし、私にとってはとても表現しやすい素材です。
|
|
|
大橋 |
学部卒業制作の作品 「THE BEST チェアー賞」(2008)で、既に装飾的な模様が描かれています。
|
|
篠崎 |
釉薬を吹き付けた上に呉須で描いています。座れるけれど陶器なのか、陶器で座れないけれど椅子なのかというのがテーマの作品です。
それまでに制作した一番大きな作品で、学科賞を戴き、このまま制作を続けてよいと背中を押されたように感じて大学院に進むきっかけになりました。でもテーマの振り幅が中途半端だったので、次に完全に抽象的なかたちをつくってみようとしたのが「wa」(2009 )です。
|
|
大橋 |
球の集合体に水玉の絵が描いてある作品の始まりです。外側のカラフルな装飾は篠崎さんの持ち味だと思いますが、どんなイメージですか。
|
|
篠崎 |
私はサイケというジャンルの音楽や映像、インドやタイの民族模様やヒッピー文化などが大好きなので、その色彩やパターンに影響を受けていると思います。作家でも大竹伸朗さんや池田学さん、kevin hooymanが好きなんです。
「四面族」(2009)では四面異なる文様を組み合わせることで、人にはいろんな面があるという意味を表しました。
つくり方は、球体を連続して繋げるだけでかたちが変っていくのが面白くて、半分つくったらひっくり返してその部分をバケツに入れ、そこに手びねりで球体を積んでいくという方法です。かたちのイメージをなんとなく考えてから始めますが、途中で絶対に変ります。絵は鉛筆で直接土肌に下書きしてから、色を塗り分けていきます。焼成は素焼きと描いてからとの二回です。
「二面族」(2010)では、音楽を感じさせるような絵を目指して、好きな建物のかたちや、理想の街みたいなものを描いています。
いろいろなことを試してみたくて、「カイジンヨンジュウメンゾク」(2009)では球体のひとつひとつに異なる文様を描きました。でもかたちは一体化した方がやはり良いと気づいたので、このかたちの作品はこれだけです。
|
|
大橋 |
制作時間は長いのですか。
|
|
篠崎 |
「四十面族」(270×660×500mm)(2009)は東京国立近代美術館工芸館「装飾の力」展に出品したのですが、時間の制限のある中でさらにクオリティの高い新作をと依頼され、一ヵ月半ほどでつくりました。絵を描くのに一週間、手びねりには2〜3週間かかりました。
この作品は描いた絵が一枚一枚めくれるようなイメージで、文様から縮緬や着物を連想すると言われました。私の祖母が着物好きだったり、自然の豊かな環境に住んでいますので、そういう感覚や今までの経験が出ているのかなと思いました。
「Hungry man02」(1110×600×600mm)(2011)では、よくテーマに上がる、陶芸は中が空洞というのが大きな特徴としてあり、それが欠点でもあり利点でもあるということを考えました。私自身にわっと吐き出したいような欲求があって、口から出てきているもので内側をイメージさせる作品です。でもこれをつくって、出てくるよりも、見えないけれど内側に何かあるという空洞に関するイメージのままの方が面白いと考え直しました。
|
|
大橋 |
元気で楽しい作品のイメージがありましたが、葛藤と実験の繰り返しがあり、今回の「I am hungry」(2011)が生まれたのですね。今までの台の上に置く安定感のあるかたちから2m30cmの大きさのものを吊るすということは、なぜ考えたのでしょうか。
|
|
篠崎 |
これまでもダイナミズムを感じさせるような動きのある方が緊迫感があっておもしろいと考えていて、不安定につくろうとはしていたんですが、難しかったんです。
土以外の素材も考えたんですが、やはり土が面白いので、勝負するような気持ちでつくりました。この作品は100キロ程ありますがボルト二本で留めています。かたちは具象と抽象が混ざったようなイメージで見る人がいろいろ想像できるようにしたかったんです。人間の欲求は、生きるためという純粋な部分とそうでない部分があると思うのですが、一見すると醜いような感情やものでも、すごくエネルギッシュで綺麗だと感じることがあり、人間だからこそ持っているものがある、それをいっぱい表現していこうと思いつくままにいろいろな表情を貼り付けたり刺したり、欲求のおもむくままのかたちをつくってみようと思いました。
|
|
大橋 |
それで最初に「自分が気持ちいいと思う動作」と言われたのですね。
どんどん作品が大きくなってきた篠崎さんですが、「器」もたくさんつくられていて、小さいのに密度が濃く煌びやかで魅力的です。大きな作品をつくる時とは違いますか。
|
|
篠崎 |
どちらも同じです。器は用途があることで、立体の自由さとは違う面白さがあります。加飾をやり過ぎてしまうので用途的にはうるさい場合もありますが、今はそれがやりたいことなのです。
|
|
大橋 |
今後はどんな作品を考えていますか。
|
|
篠崎 |
今展では陶による大きな組作品にする予定です。
作家は生きてつくっているだけで社会性が作品に現れるものだとは思いますが、震災を経て最近いろいろ思うところもあり、これからはその気持ちを共有できるような作品になっていったらいいなと思っています。
|
/インタビュー終了/>