2009年5月8日 インタビュー:大橋恵美 (INAX文化推進部)
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大橋 |
2007年に愛知芸術センターで初めて作品を拝見しました。あのコーナーだけ既存のショーケースに入っていたので、最初、誰かの骨董品なのかなと思いました。でも近づいてみたらすごく面白くて感動しました。最初に多摩美で陶芸コースを専攻された時から、こういうものをつくりたいと思っていたんですか。
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福本 |
いいえ、最初はあまり考えて入ったわけではないので、いわゆるオブジェ的なものをつくっていたんです。これがその頃の作品なんですけど。
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大橋 |
この作品ファイル、飛び出す絵本みたいで面白いですね。
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福本 |
作品は全部陶でつくっています。この時は箱が大好きだったので、その中に有機的なものを
コンパクトに詰めて機能しているみたいなものでした。
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大橋 |
ちょっと臓器みたいですね。
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福本 |
臓器ではないんですが、有機的なもの。
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大橋 |
タイトルはなんですか。
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福本 |
「箱」、ですね。中に水を入れてプカプカ浮かせた。
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大橋 |
そっけなさがまた。(笑) やっぱり最初からこういうオブジェだったんですね。
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福本 |
多摩美に入ると、取り敢えずオブジェなんですね。普通に疑問も持たずこういうことをやっていた。
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大橋 |
2002年に「蟹工船」というタイトルでつくっている。相当面白い。
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福本 |
(笑)早過ぎましたね。ガラスを使う授業でつくったんです。その後コンセプチュアルな方にいってみたりして。
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大橋 |
福本さんの作品は今、大まかに分けて3つのシリーズになっているんですね。無用シリーズ、ニュー骨董シリーズ、フューチャー骨董。どこからつくり始めたのですか。
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福本 |
「ご飯つきカレー皿」というコンセプチュアルなものをやったのが最初です。
その後、それは止めてしまって無用なものを。使えそうで使えないものを。
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大橋 |
ひとつつくって、もっとこういうものをと進むんですか。
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福本 |
適当につくるというよりも、最初にコンセプトをしっかり決めた方が自分には向いているし、いい物ができるなと思ったんで。陶器について考えて、使えそうで使えないものをつくるぞって考えて、ドローイングして決めてからつくります。その後しばらくそれを続ける。
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大橋 |
「フクモ陶器ハンドブック」を読むと、だましてやるとか、いやがらせをしてやるとか書いてあるじゃないですか。
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福本 |
それは私のもともと持っていた素質なんでしょうね。
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大橋 |
でも笑う人が多いですよね。笑うというのは一番良いリアクションだと思います。これは何と、わからないところにいきなり惹き付けられるんだと思います。もともとだましてやろう、驚かしてやろうというのが楽しいんだと思うんですけど。
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福本 |
そうですね、子供の時からそれは。呪いの手紙を書いて友達に送ったり。もらった人は泣いていましたよ、子供ですからね。幼稚園くらいから。両親がサラリーマンと公務員でした。母親が教員だったので、要らない紙とかいっぱいあったので、つくると、母が端から捨てるみたいな。
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大橋 |
夥しく出来て来るからとっておけないから捨てようと。
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福本 |
小さい頃体が弱くてよく学校を休んでいたんですね。で、現実の世界が嫌だったんでしょうね、参加できないし。それで家で仏壇とか見て妄想したり。仏壇にひいおばあちゃんがいるんだよとか言われると、住んでいるのかと思って、小さい人形をつくって入れてみたり。親は学校休んでこんな事ばかりしてと、心配していたみたいですよ。親からつくったものを捨てられたから、今もその延長でつくっているのかも。
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大橋 |
お店屋さん形式になったのはいつからですか。
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福本 |
「フクモ陶器大バーゲン(BANKART NYK、2007年)」からですね。愛知の前で忙しくて会場にいられないなと思って、料金箱をつけて、野菜の無人販売みたいな感じにしようと思った。そうしたら売れていて。ごまかしたり全然なくて、むしろお釣がないからと多く入れていたり。
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大橋 |
何が売れていますか。
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福本 |
人気なのは「急須キャップ、湯呑キャプ」
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大橋 |
すぐに使えて、持ち歩けて話題にもなる。コミュニケーションツールになりますよね。急須とか湯呑とか皆和風な感じなのは。
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福本 |
陶器についてすごく素人目線なので、陶器にまつわる、何焼きとかそういう所が面白いなと思って。そういうことを含めたことをやりたいなとずっと思っていて。いわゆる曰くがありそうだ、歴史がありそうだ、そういう雰囲気を持ったものを。曰くは全然ないんですけどね、別に。
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大橋 |
(笑)曰くがありそうでも、B級品みたいなところがすごく良いですよね。「白菜そろばん」はどうして大きな白菜を爪みたいな小さな玉にしたんですか。
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福本 |
桃もよく使うんですが、いわゆる目出度いものに使われてきた吉祥の雰囲気があるので、使っているんだと思います。
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大橋 |
多摩美の後に筑波大へ行きましたよね。どんなことを狙って行ったんですか。
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福本 |
このままやっていてもなぁというのもあったし、別にやきものをやめてしまってもいいというのもあって行ったんですけど、たまたまやきものが出来る環境があった。それだから、どうしても続けたいということでなくズルズルと来てしまった。
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大橋 |
でも、だんだん展覧会のオファーがくるようになって、出品すると思いがけないリアクションがありますよね。面白いでしょう。
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福本 |
作品は、プレゼントで買っていく人も多いですね。こんな馬鹿らしいものを買っちゃった自分を見せたいと。お客さんはおじさんが多いですね。おじさんは役に立たないものが好き。それとやきものだから見てくれる人がいる。
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大橋 |
骨董品屋さんのイメージもありますが、それはご自分が好きなんですか。
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福本 |
自分が好きなこともありますし、さっき言ったように、ものだけでなくて、ものの周辺の曰くがあるような感じがいい。それで骨董市で買ってきたものを利用して作品をつくったりもしているんです。そもそも何に使っていたかわからないものに、プラスをするので、もう何が何やら(笑)。
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大橋 |
福本さんの作品は骨董屋さんに入ったみたいで、ワクワクします。何が出てくるかわからない所を探検するみたいな。それに言葉がすごく面白い。造語というか。商品名はいつ考えるんですか。
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福本 |
タイトルというか、名前は最初に決まるのが一番多いです。最後までピンと来ないとあまり結局良くないです。
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大橋 |
いろんなタイプのものをつくられていますが、自分ではどの方向性のものが一番好きですか。
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福本 |
ずいぶん前ですがINAXの「道具の謎とき」展のブックレットがすごく好きで、かなり影響を受けました。あの中のものにはびっくりしました。
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大橋 |
福本さんには常滑の「やきもの新感覚シリーズ」でも展覧会をしていただきますが、常滑ではどのような展示になるのですか。
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福本 |
タイル博物館の方は博物館的に1点1点展示して、解説の掛け軸を掛けたりして、お寺に併設している宝物館みたいな感じで。陶楽工房の会場には実用性のあるものを。
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大橋 |
福本さんの作品は、やきものを見て笑うことって滅多にないので、笑えるのが最大の魅力ですね。お店屋さん仕立ても、コミュニケーションがあって面白い。
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/インタビュー終了//>