INAXライブミュージアム ものづくり工房 ものづくり工房

〜ヴィクトリアン時代のバラ文様タイル復元〜
2010/11/ 2
文化活動への貢献

憧れの花・バラ

今からおよそ4000年前、紀元前2000年頃、「ギルガメッシュ叙事詩」から、バラは語られ始めました。 バラはその香りと美しさゆえ、古くから王侯貴族を中心に人々に愛され、憧れの花となりました。陸路を通り、海を越え、近年では北半球の広範囲に繁殖することで、現在では、世界中の人々に愛される花となりました。


      ヴィクトリアンタイル
      19世紀イギリス



タイルに咲いた憧れの花・バラ … Roses on the decorative tiles in Victorian Britain

イギリス王室では白と赤のバラを組み合わせたデザインの「チューダ・ローズ」と呼ばれる紋章が使用され、国花をバラにしていることからも、バラがイギリス人にとってもっとも親しみがあり、特別な存在として愛されている花であることがわかります。19世紀ヴィクトリアン時代の産業革命により、多彩なタイル制作の技法が確立し、量産化が始まります。それと同時にオランダから園芸も伝わり憧れの花を育てるようになりました。しかし、バラの花の命は短いため、バラで永遠に部屋を装飾できるようにタイルにデザインをし、さまざまな技法を駆使して、美しさを競い合った結果、洗練されたバラのデザインのヴィクトリアンタイルが生産され、中産階級の人々を中心に広まりました。


ヴィクトリアン時代のバラ文様タイル復元への挑戦

INAXライブミュージアム所蔵のヴィクトリアンタイルにも、バラの花をモチーフにしたタイルが数多くあります。これらのタイルを集めて、2009年には世界のタイル博物館にて企画展「タイルに咲いた憧れの花・バラ」〔リンク先:http://www.inax.co.jp/museum/current/020_special/001521.html〕を開催しました。
企画展開催にあたり、ものづくり工房でもヴィクトリアン時代のバラ文様タイルの復元に挑戦することとし、写真2のレリーフ手法のタイルをそのターゲットとしました。



写真2 復元目標のヴィクトリアンタイル

 

自然を象徴する緑一色で、アールヌーボー調にデザインされたバラが描かれている。中心から放射状に並ぶ5弁の花を正面から見た図案はイスラームのロゼット文様にも通じ、バラの美しさ、妖艶さとともに、内側から放出される力を感じさせる。中世に見られるシンメトリック図案だが、このタイルではレリーフ上に施した単彩釉による濃淡のグラデーションが効果的である。







復元の詳細


レリーフ手法とは、凹凸のついた素地の上に透明感のある色釉薬を施すことで、凹の部分に釉薬が厚くかかり色が濃く見え、凸の部分の釉薬が薄いことから素地の白い色が透けて見える手法です。凹凸の微妙な傾きに応じた釉薬の色の濃淡と透明感の調整が、このタイル復元の重要な要素です。



しかしながら、復元における大きな問題がありました。それは、現代ではその有害性から使用が制限されている鉛がヴィクトリアン時代の釉薬には使われていたことでした。鉛を含んだ釉薬を使用することによって、当時のタイルは透明感のある色の濃淡や光沢感が実現されていたわけです。*1

有害物質である鉛を使用せずに、この特徴ある光沢感をもつ釉薬をつくりだすことが、このタイル復元の最も重要なポイントでした。レリーフ模様のないタイルでは、鉛を用いない釉薬での光沢感の再現は過去に何度か試験や復元の事例(芝川又右衛門邸 暖炉周りのヴィクトリアンタイル)
リンク先:http://inax.lixil.co.jp/tilinglabo/activity/030_meister/001228.htmlがありました。これらのデータベースを活用して、バラのレリーフ文様へ適用することから復元を始めました。凹凸のある素地に鉛を含まない釉薬を厚く塗り、この釉薬が焼成により溶け出しガラス状になった後の表面の平滑性、透明感、色の調整を行いながら、バラのレリーフ文様の確認を繰り返しました。



最終的に復元したタイルの写真をオリジナルと比較して写真3に示します。本物を横に並べると、すこし明度が足りないような気もしますが、単独で見る上ではヴィクトリアン時代の人の目をも満足させる出来栄えであると感じています。


●先行試験(一部抜粋) 色の発色と釉薬の深み感を再現するために先行試験を実施しました。








オリジナルのヴィクトリアンタイル

   オリジナルのヴィクトリアンタイル 
写真3 ものづくり工房の復元タイル

   写真3 ものづくり工房の復元タイル



同時期に開発した青色の釉薬でも表現してみました。


ものづくり工房の復元タイル(青)
  ものづくり工房の復元タイル(青)

これらの復元タイルはINAXライブミュージアムのミュージアム ショップにて販売しています。
*1 鉛を含む釉薬(ガラス)が深みと独特の光沢感を持つ理由
鉛元素がガラスの中に含まれていると、光の屈折率が大きくなり光の散乱が通常のガラスより大きくなります。最も屈折率が高く光を透過するものがダイヤモンドです。したがって、屈折率が大きくなるということは、ダイヤモンドの透明感と輝きに近づくと言い換えることが出来ます。
鉛を含んだ有名なガラス工芸品としてベネチアンガラスなどが知られています。


ページの先頭へ

LIXIL Link to Good Living

Copyright © LIXIL Corporation. All rights reserved.