INAXライブミュージアム 世界のタイル博物館 INAX TILE MUSEUM

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中国のせんと朱泥色の床タイル

当館の2階常設展示室の中国と日本のコーナーの床には、それぞれ中国のせんをイメージした床タイルと常滑の朱泥の色を再現した床タイルが張られています。いずれもこの博物館のために特別に作られたタイルです。
中国では、粘土を焼いてつくられた建築や土木の用材であるれんがや陶板のことをせんと呼びます。その起源は、紀元前500年頃の戦国時代にさかのぼります。人物、動物、文字などを浮き彫りにしたものや、彫り込んだものなどがあり、初めはいずれも釉薬はかかっておらず、窯の中での温度や炎の状態の自然なバラツキによって、還元がかかった状態になり、表面が土色、いぶし色あるいは黒っぽくなったものが中心でした。

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中国の武庫画像せん(左)と無文方せん(収蔵品から)

再現したせんは約30cm角の正方形で、湿式押出し成形機によってつくられていますが、成形機を出た後、ローラーで表面に古びた感じになるよう凹凸の模様をつけ、さらに部分的にフラットなローラーでその上を押さえて表情に変化をつけています。原料には酸化鉄が加えてあり、酸素が十分供給される条件で焼成(酸化炎焼成)するとれんが色になりますが、このタイルは酸素を不足気味にして焼成するいわゆる還元炎焼成をしているために、表面は酸化鉄が一部還元されて酸素の少ない黒色の酸化鉄に変化しています。機械生産される現在のタイルは、品質の一つとして寸法精度が要求されているので、床に張られたときのタイルの目地通りがよいのが特長です。しかし、この中国のせんを再現したタイルは、ローラーで押さえつけたり、稜線のエッジ部分を手で押さえたりして手作りのやわらかさを演出しています。そのため寸法にもバラツキが出て、目地通りは決して良くありませんが、タイルの持つやわらかな素材感とその自然な寸法のバラツキがマッチして、心地よい床をつくっています。目地材は、通常のモルタルではなく、砂をまき入れています。

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中国のせんをイメージして製作された床タイル

最近、テラコッタやコットと呼ばれる外国製の素焼のタイルが敷き詰められた床面を見かけることが多くなりましたが、そこでも素焼のやわらかな質感と寸法や表面の凹凸の自然なバラツキがうまく生かされています。官公庁の建物の外周によく使われるプレス成形されて真四角で細い目地が通った床が「硬い、冷たい、面白味がない」という印象を与えるのと対照的に、これらの素焼のタイルや手作り風タイルは、実にほっとする安らぎを与えてくれるものです。
一方、日本のコーナーに張られたタイルは、プレス成形されて非常にシャープな形状につくられたタイルです。色は、常滑の朱泥の赤色を狙ったものです。赤茶色の急須で有名な朱泥は、もともと知多半島で採れる鉄を含む田土でつくられていたものです。しかしながら、かつてのような良質な田土が枯渇してしまった現在では、量産品の朱泥の急須の多くは、白っぽい粘土に鉄を含む赤色の顔料を混ぜたり、表面に赤茶色の泥しょうを掛けています。こちらの床タイルの製作に当たっては、酸化鉄を含む原料を使い、より明るい赤味のある色を出すために、電気炉を使い、最高温度1100℃という比較的低温で焼成し、冷却段階では特にゆっくり冷却しています。高温で焼成したり、徐冷がうまくいかなかったりすると赤黒い色になってしまうのです。このタイルは、十分焼きしまっていないので汚れやすいという欠点があり、一般向けの商品には適していません。博物館の奥まったところで汚れが持ち込まれることもないので、現在まで当初の美しさを保っています。


朱泥の原料を使って製作された床タイル

このように、寸法にバラツキがあったり、低温で焼成して強度が少し不足したり、汚れたりする恐れのあるタイルは、本当は色や質感の点でとても魅力的なタイルなのですが、いかなる使用においても不都合がないように規定されているJIS(日本工業規格)などの品質規定に適合しないため、商品化はされていません。

(主任学芸員 竹多 格)
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