INAXライブミュージアム 世界のタイル博物館 INAX TILE MUSEUM

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世界最古のタイル

「世界のタイル博物館」では、世界最古のものといわれているタイルを収蔵展示しています。緑がかった青色の釉薬が掛かった縦62mm、横38mmの長方形のタイルです。この世界最古のタイルは、今から約4650年前にサッカーラ(カイロの南西25km)に建てられたエジプト古王国時代の第3王朝期のネチェルケト・ジェセル王の「階段ピラミッド」の地下にあったものです。




エジプト・ファイアンス・タイル


これより以前の王家や王族、貴族の墓は、マスタバ墳とよばれる日干しれんがを台形状に積み上げただけの簡素なのものでしたが、このジェセル王の墓はエジプト史上初のピラミッドで、世界でも最古の石造建築(基辺109m×121m、高さ60m)と言われ、その階段状の外観は、国王の霊が天に昇って太陽と合体するための階段を象徴したものと考えられています。タイルは、この階段ピラミッドの地下にある未完成の地下通廊の壁に、石灰岩のブロックを積み上げた壁を彫り込んで嵌め込まれています。

エジプトでは、これ以前の先史時代にナイル川流域の赤土を使った土器がつくられ、やがて紀元前4000年頃には、ナトリウムと銅からなる青い色の釉薬 (アルカリベースの銅青釉)がつくられ、滑石などの石に施釉して焼いた施釉石製品が作られています。その後、王朝時代になって、石の代わりに珪砂や石英の粉末を主原料に、ナトロン(天然の炭酸ナトリウム)などの熔剤を加えた原料で成形した本体に、青釉を掛けた焼きものが作られるようになりました。これらは、トルコ石やラピスラズリ(青金石)などの天然の宝石に代わる人造宝石として需要が多く、装身具のほか墓に副葬する護符などの原料としても使われ、特に「エジプト・ファイアンス」(エジプトのやきもの)と呼ばれています。可塑性(粘り)に乏しいので、型に入れて成形し、そのまま焼かれたとも言われています。この最古のタイルの分析によると、珪石分が約90%あり、エジプト・ファイアンスと同じ製法で作られたものと考えられます。


ところで、タイル業界では一般にタイルというと、建物の壁に張り付けて建物を内外から保護する役目を持つ、やきものでできた薄板のことを指します。このピラミッドの地下の壁に張られたブルーのやきものは、壁に張られておりその定義にかなったタイルと言えるものですが、本当に当時の人は壁を飾る建材と認識していたか疑問に思われます。現在の建材の中で、モザイクタイルと呼ばれるものと偶然にも大きさや形が良く似ているために、タイルの範疇に入れてしまいがちですが、実際はタイルというよりも宝石と呼んだ方がふさわしいのかもしれません。それほど美しいやきものなのです。一般に、古来から建造物に使われてきたタイルは、正方形や長方形で、表面は平らか或いは平面を基調としたレリーフなどの装飾を施したものが多く見られます。ところが、ピラミッドのタイルは、形は長方形でも表面は美しい曲面をなしています。このような面を持ったタイルは他に例を見ないので非常に珍しいものです。




カイロ博物館に移築されたタイル


実際の壁面で見られる連続模様は、パピルスなどの葦科の植物で作られた玉スダレ、或いは壁に掛けるマットのようなものを模倣したものと考えられています。このタイル張り模様を注意深く見ると、上下方向には、青いタイルとベースの石灰岩を彫刻して2枚重ねの円板状にしたものを交互に配しているところから確かにそのように見えるのです。建物の壁にタイルを張り込めて飾るというよりも、むしろ死者のためにその墓室を未来永劫生前と同じように飾るために、最大限の贅を尽くして、貴石と同じ青色のやきもの製の玉スダレ、或いはマットのようなものを作り付けたものと思われます。

当館では、このエジプト・ファイアンス・タイルの表側だけでなく、裏側も分かるように展示しています。裏側には、中央付近に一段厚くなった部分があり、その中に左右に貫通した小さな穴があいています。ちょうどコートなどに使われている大きな飾りボタンの裏側のようになっているのですが、その用途は定かではありません。スダレ状のものをやきものでつくる場合、スダレに使われる玉の一つ一つに穴が空けられます。このタイルに見られる貫通穴は、それらの玉が紐でつながっている姿を忠実に再現したのかも知れません。機能的な目的という点から考えると、石灰などの接着剤が乾く間にタイルが落下しないように、裏側でひもで固定するために、このような貫通穴があけられたのかもしれません。現在でも、壁から天井に移行する部分や、天井にタイルを張る場合には、タイルに針金を付けて下地に固定する方法が取られます。実際、このエジプトのタイルが張られた場所は、通常の鉛直な壁のほかに、スダレを巻き上げた形のようにも見える部分があり、ここでは天井からぶら下がる格好で張り付けてあります。王の墓室につながる通廊にタイルの剥離などの粗相があっては許されないので、確実を期してこのような施工方法が取られたのだと思われます。




ファイアンス製の護符


(主任学芸員 竹多 格)
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