2010年12月27日 インタビュー:大橋恵美(INAX文化推進部)
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大橋 |
旧フランス大使館のDANDANS展(2010)で拝見した時、鰐皮のコスチュームやルージュ色のブーツがブランドショップのようにつくられた中に展示されていました。若い女性らしいファッションをモチーフにした作品の印象を持ちましたが、そうした本来柔らかいイメージのものが、硬い陶の質感でつくられていることで迫力が出ていました。いつ頃から陶でこういう作品をつくり始めたのですか。
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松元 |
学部の3年生頃からです。もともとワニの動物としての存在が強烈で格好いいと思っていて、最初はワニ自体の像をつくったりしましたが、なにか自分ともっと繋げられないかと思って変りました。鰐皮のごつごつとした表面のマチエールに惹かれて入ったところもあるかもしれません。
私は三人姉妹の末っ子で、一番上の姉がすごくブランド物が好きだったのですが、自分が中高生の頃はなぜそれが好きなのかわからなかったんです。でも私も自然とファッションに興味が湧いてきて、自分の生活に密着しているものと感じましたので、テーマとしてファッションとワニが結びつくのに全く抵抗はなかったですね。
すごく強い生物であるワニの皮を剥いで着ることに面白さも感じて、そんな自分が持っているブランドに対するイメージを表現するような気持ちで制作しました。
例えばコートもワニの顔が前身ごろについて鎧のようだったり、それをまとって出陣するというイメージがあり、私にとってブランド品というのは戦闘服とか戦闘具のように見えるんです。自分では欲しいとも思わないし着たりしないのですが、やっぱり何かあるんじゃないかと思いますね。
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大橋 |
松元さんは彫刻専攻ですが、素材にやきものを選ばれたのは。
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松元 |
素材をいろいろ扱う中で、土の可塑性にすごく惹かれました。焼成によって一瞬自分の手を離れることにも魅力を感じました。基本的なところは教えていただきながら、粘土を買ってきてほぼ独自に焼き方の研究をしました。工芸の人から見るとつくり方がだいぶ荒っぽいと思われていたかもしれません。今回の作品も一度つくっている間に爆発してしまったんです。割れるということはマイナスかもしれないけど、私にとっては特別な緊張感があります。鉄や木にも触れましたが、やはり自分の手の感触でつくれる土がよかったんですね。
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大橋 |
やきものという非常に不自由な素材に、なぜ若い人たちが惹かれるのか見たいという想いもあります。松元さんにとってやきものはどういう位置づけなのでしょう。
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松元 |
新しい素材がある中で敢えて伝統ある素材を使って、私たちが今いる世の中に発信する。そのギャップが面白いのではないかと考えています。それにファッションという、一見すると表面的に思えるジャンルを、ワレモノというデリケートな素材で表現することにも面白味を感じています。
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大橋 |
皮革のマチエールを岩のような硬さに表現されましたが、伝統技法の技術的なことはどうでしょうか。
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松元 |
私は技術を全部習得して出力するのではなく、自分が表現したいものに対して技術を取り入れていこうというタイプなので、必要なものは調べていく感じです。釉薬も技術も数え切れないくらいあるし、それを全部開拓しようと思ったらまだまだです。自分が土をいじって焼いただけでこんな風になるという変化がすごく面白くて、その面白さの中で制作を続けているので、素材研究に関しては実験をしながら作品ができていくというところはあります。
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大橋 |
もともと彫刻を選ばれたのは。
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松元 |
小さい頃から絵を描くのが好きで、高校生で美大予備校に行きましたが、そこで彫刻の説明をしてくれた先生の、彫刻は全身でつくるもの、健康的だという言葉がとても印象に残ったんです。私は、小学生の頃からフィギュアスケートやクラシックバレエが好きで、中学生の時にはミュージカル部に入って、とにかく体を動かして表現することが好きだったんですね。大学に入ってからは、美術の技術を持って、パパ・タラフマラの公演の舞台美術を手伝うことができて楽しかったですね。
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大橋 |
新作では人体のトルソをつくり、今度はその肌自体が鰐皮になりました。この1年の間に変わりましたね。
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松元 |
自分ではそこまで大きく変わったとは思っていなくて、自然な流れであったように感じています。「crocodile suit」の頃は硬くて分厚い殻をイメージしていたのですが、それが段々それを着ている人の肌との間を埋めたいという気持ちになってきたんです。
というのも、今のブランドのあり方自体が、日本人にとって“special”ではなく、誰もが普通に身につけることの出来る存在になっているのではないかと思うからでしょうか。もはや、硬い殻というよりも皮膚感覚に近いのではと。
私自身は今でもブランドは、皮膚感覚になってはおらず、そこに違和感があるからこそ、固い粘土で表現していますが。一見しっくりきているようで、絶対に着ることのできない衣服、という意味を持ち、完全にフィットさせることはないと思います。
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大橋 |
かたちとして人体に鱗がついたものが現れるというのは、かなりストレートな表現方法ですね。松元さんは作品を制作する時、先にコンセプトを考えますか。
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松元 |
漠然としたコンセプトはありますが、感覚でつくり始めるほうです。制作中のかたちのやりとりの中から生まれるものから発想していくことが大切です。新作は色も肌色に近くなって、ドレープのように鱗のついた等身大のトルソーと、耳と、足にチャックをつけたかたちで、中空に浮いているように展示構成したいと思っています。
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大橋 |
ドレープやチャックやトルソーと聞いてルネ・マグリットの絵画を、耳と聞いて三木富雄の同じモチーフを思い出しました。脱皮して違うものになっていくということなのでしょうが、そこに表れる寓意性は意識していますか。
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松元 |
マグリットの絵は知らなかったのですが、他の方々からもやはり言われました。
私の場合は、人体の中と外の存在を感じさせるような象徴的なものとして、体にチャックがついているのですが、皮の脱げていくイメージがあったので、ただの入れ物ではなく次を感じさせる予兆みたいなものを込めています。
蛇の抜け殻やセミの抜け殻にも似ているのかもしれません。かさぶたのような。
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大橋 |
次々と脱皮していくような。作品のその先のイメージはありますか。
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松元 |
それはまだないんです。ただ、これまでの作品は見る人に私の意図を汲み取って欲しいと思っていましたが、今はいろんな受け取り方ができる作品をつくってみたいと思います。でもまだこれからもワニは出てくると思います。
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大橋 |
松元さんだけが持つ迫力ある作品がこれからも生まれることを祈っています。
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/インタビュー終了//>