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LIXIL ブックギャラリー 新刊案内17
「虫たちと作った世界に一つだけのレモン」

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 20世紀は「科学の世紀」と呼ばれている。目覚ましい科学の発展により、産業が発達し、大量生産、大量消費が可能になった時代である。この恩恵を受け、私達は豊かさと便利さを享受している。欲しいものを欲しい時に欲しいだけ手にすることができる。
 もちろん食物も例外ではない。季節を問わず一年を通して世界中から手に入る、形の整った美しい野菜や果物。これらの作物が、大量の化学肥料と化学農薬を使用する農法によって生産されていることは、ともすると忘れられがちである。
 このように農薬にまみれた作物に疑問を呈する動き、食の安全を守ろうとする動きが、21世紀を目前に活発になった。合鴨農法による米作り、自然栽培のリンゴなど、メディアでも大きく取り上げられ話題になったのは記憶に新しい。有機農法、オーガニック栽培という言葉が一般的になったのもやはりこの頃からである。

 そして、本書のレモンである。90%を輸入を頼っており、運搬のために使用される農薬について危険性が問題となっている作物。国産レモンはたったの10%という事実も改めて知ると驚くが、この農薬たっぷりというイメージを持つ作物の完全無農薬栽培に成功していることも驚愕の事実ではないだろうか。
 本書の著者である河合浩樹さん。みかん農家を継いだ河合さんが、農薬に対する違和感と、日本におけるレモン栽培の状況から、始めたそうである。「完全」無農薬は、病気や害虫の被害を人為的には防ぎようがない。栽培を始めてから約30年、実行している人にしか解らないであろう苦労の連続。その起こってしまった事態とどのように向き合い、解決に向かうのか。本書を読むとそれをほんの一部を垣間見ることができる。

 著者は、自然について、科学や化学を使って人間の力で支配・制御できる対象とは考えていない。あくまで人間も自然の一部、自然の循環に反しない環境を整え、栽培を行った時、人間の体に害を及ぼさない、また美味しい作物が収穫できる。そう考えている。もちろん著者だけではなく、自然栽培を目指す人々に共通する思想でもある。

 人間にとって害になる対象を科学の力で排除し、有益なものだけを取り出す。科学の力を使って自然を支配できると、傲慢にも錯覚を起こしていたのが20世紀だったのかもしれない。しかし一方的な支配からは、必ずしっぺ返しを受ける。私達は身を以てそれを体験している。一旦科学の恩恵と利益を享受した私達は、それがない時代に簡単に戻ることはできない。しかし、この反省に立ち、自然と如何に調和していくかを科学を使って探る。そういう世紀に21世紀はなって欲しい、と本書を読むと願わずにはいられない。


虫たちと作った世界に一つだけのレモン/河合浩樹著/272ページ/朝日新聞出版/1,500円+税

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