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「東京断想」

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 「みかんぐみ」という名前の建築設計事務所がある。所属する4人の建築家には、いよかん、ぽんかん、あまなあつ、きんかんというニックネームがそれぞれついている。建築事務所の名前としてはユニークで奇抜(名前の由来はメンバーの子供が通っていた保育園の名前だそうである)だが、そのうちの1人、きんかんことマニュエル・タルディッツがこの書籍の著者である。

 フランス人建築家である著者は東京在住30年だそうだが、その期間に得た知識の集積がこの著作だ。85編という短い断章、エッセイ――作者は「フィクション」と呼んでいる――により構成されている。日本に生まれ育たなかったという意味で、全く異質な西欧的視点を持ち、かつ30年という母国よりも長い期間を東京で過ごした作者だからこそ書ける作品である。

 読んでみると、建築だけではなく歴史、芸術、文化、生活などのすべてに関して、作者が広く、深い知識の持ち主であることがわかる。もともと知識欲が旺盛であろうことは想像に難くないが、理解不能な日本という異文化の世界にどっぷり浸かったことが、知識の獲得にさらに拍車をかけたのではなかろうか。非常にマニアックな史実や書籍に精通していることがうかがえる。それぞれに、同じページ内で詳しい註がつけられているため、それらについて何も知らない日本人でも安心して読むことができる。

 伊東豊雄が本書について「彼は膨大なフィクションをブリコラージュして東京論を描いて見せた」と書いているが、まさにブリコラージュという言葉が最もふさわしい(ブリコラージュとは、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ることである。ウィキペディアより引用)。  「Tokyo ― Portraits & Fictions」と題され、フランス語で書かれた本書が日本語では「東京断想」と訳されているのもそのような理由からだろう。

 翻訳は石井朱美。リズムと流れのある文章で、作品の魅力を増している。筆者は彼女の文体を「穿(うが)った日本語」と表現している。フランス語版、英語版と読み比べてみるのも面白いかもしれない。

「東京断想」 マニュエル・タルディッツ著/石井朱美訳/304ページ/2700円+税
(当店では日本語版のみ取扱い)

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